♯54 瞬間という魅力
眠る瞬間を感じたい。日の出の瞬間が見たい。南中の瞬間も見たいし、日が赤くなる瞬間も見たい。そして太陽が水平線に沈んでいく瞬間。
賢くなる瞬間を感じたい。記憶した瞬間を感じたい。背が高くなる瞬間を感じたいし、体重が増えた瞬間。視力が0.1悪くなる瞬間。耳が遠くなる瞬間。髪の毛が長くなる瞬間。音階が上がった瞬間。何かに慣れた瞬間。何かが変わった瞬間。成長した瞬間と劣化した瞬間。
瞬間は瞬く間と書く。人は瞬きより早いものを認識できない。確かに目の前で起こっているはずのことなのにそのリアルを感覚で感じることが出来ない。
目には分解能という限界がある。人はあまりに微少な距離は認識できない。確かに動かしたという実感と、認識できないその距離の不協和が明日の景色を曇らせる。
要するにそれが原因だ。人は絶対的には変化しているはずものを変化していると認識できない。機械にここまで信頼を置くこの時代なのに。興味深い錯覚を体験しては感覚器官の不完全さを学んでいる我々なのに。
だからその変化をつかむには「瞬く間」が積もった十分な時間が必要だ。我々の分解能が認識できる距離を生み出すような大雑把で無粋な時間の束が。瞬間というロマンと人のエゴで要請される暴力的な時の束。
今日は久々の人と会うことになる。瞬きより早くて分解能より小さな僕の変化をあなたに捧げる。気づいてね、ぜひぜひ。