隔日おおはしゃぎ (Road of座)

Road of座(ロードオブザ)の代表大橋拓真が、ほぼ隔日でコラムを書くところ

♯26 小さなライダー

そのライダーとは、日の暮れなずむ踏切を少し過ぎた辺りの真新しい一軒家の横で出会った。初夏の頃のその地域の夕方は涼しげで、近く来たる逢魔が時の気配を若干に含んでいた。

夜の峠道は恐怖である。ヘッドライトの照らす範囲だけが不気味に明るく、それを越えた場所には全く視野がない。ふと後ろを見ると通過してきた道が2、3メートルヘッドライトで明るいが、その先は闇に消えている。自分のバイク以外の明かりが何もないのだ。少しくさい例えをするならば『闇が追いかけてくる』感じである。曲がったと思えばまたすぐカーブが目の前に現れてまたハンドルを切る。前方に光を見つけ安堵してみれば、ヘッドライトをはねかえす反射板で、また心細くなる。なるほど心の寄る辺は月だけである。

そんなわけで私は道を急いでいた。ここから目的地まで峠が二つもある。そのライダーとは、そんな道中に出会ったのである。正確には出会ったというよりすれ違っただけなのだが。旅先でツーリング中と思しきライダーとすれ違うときは左手をあげるか、コクリと頷き合うというのが何となくの慣例で、私はこれを世界一短いコミュニケーションだと思っているのだが、そのライダーとも例によって世界一短いコミュニケーションを取ることとなった。

彼の車体は私のものより大分小ぶりで、赤と黄色の塗装が派手に施してある。今流行りの三輪車である。しかしその愛車にどれくらい乗っているのだろうか、その塗装の上に全体的に砂のような白い汚れが付いていた。あの小ぶりな車体のことだ。彼だけにしか見えない道をこれまでいくつも駆け抜けて来たのだろう。しかし未だ彼の目には好奇心に突き動かされる懐かしい情熱が所在なく虚ろに浮かんでいた。

前方にその姿を認めたとき思わず私は逡巡した。彼は日本にあって右側通行をしていた。交通法規を一切意に介せず、胸を張っていた。挨拶をすべきだろうか。力んだ拍子に時速が数キロ上がる。彼も負けじとスピードをあげる。おそらく5キロは出ていたように思う。彼はじっと私を見つめながらペダルを高速回転させていた。そして、左手をお洒落な角度で持ち上げた。よって思考が止まった私も手を上げる。その瞬間、私の中に彼の気持ちが流れ込んでくる感覚を覚える。不思議なものだ。0コンマ数秒の刹那に人の気持ちが分かるとは。だから答えた。

『羨ましいかい。君の三輪車より、私のバイクは大きいよ。スピードも桁違いだし、複雑な配線に繋げられたボタン、レバーを操作することも出来る。きっと君がこれに乗るにはまだ20年やそこらかかるだろう。君が町内会を一周回る間に私は日本中を回った。なのにどうして不思議だね。私は君が羨ましい。』

日はついに山の端に隠れ、東から夜が追ってきた。逆風にくしゃみ一つして、私はまた速さを競って走った。風の強さがなんだか笑えた。