隔日おおはしゃぎ (Road of座)

Road of座(ロードオブザ)の代表大橋拓真が、ほぼ隔日でコラムを書くところ

♯22 奈良県の鹿は大変なんだって

奈良ならではの名物といえばそれはもう鹿である。東大寺などの周辺に広がる奈良公園には昔から鹿が生息しており、訪れた観光客に思った以上の重さで寄りかかってきたり、しかせんべいをゆすったりと大人気である。しかし鹿ってけっこう難しい存在なんだって。そういえばこのブログってぼくが『コラム』を書く場所だったんだって思い出した。

奈良公園の鹿は昔から神の使いであるとされ、1957年には国の天然記念物にも登録されてそれはもう大切に保護されまくっている。まあぶっちゃけあいつら、ただ奈良公園で芝食ってフンして座ったり走ったりしてるだけなんだけど。でもそれがすごいらしい。というのもあいつら春日大社から祭られているんだけど、扱い的には野生らしいのだ。ていうか、人の生活のごく近くに野生の鹿がいるということが天然記念物に指定された背景なのである。だからあいつらに餌をまかなう義務を負った人はおらず、公園内で死んでたりしても、別にその遺骸を片付けなければならない人もいない。明確に責任を持った人はいないのである。野生だから。あと天然記念物の鹿ってのは奈良公園の鹿だけで、そこ一歩出ちゃうと神鹿からただの鹿になってしまうらしい。人間の線引きで神か否かが決まるとは、もはや神は人間なのではないか。

で、そうやってみんながかわいいかわいいするもんだから、自然のルールからいくぶんずれて鹿が大量に公園内に生息することになってしまった。平成29年7月の調査では公園内の鹿の総数は1498頭にまで増加していたらしい。天然記念物指定時には498頭だったというからこれはすごい数だ。芝のキャパシティ、もとい芝シティは大丈夫なのだろうか。

つまり当然ながら芝シティがオーバーしてしまっているという事なのだ。そりゃ鹿だけ3倍増えて芝シティは変わってないんだからそうなるわな。鹿としては食べる芝が少ないので人里の畑を荒らしたり、車道という、道路交通法が支配する魔境に足を踏み入れることになって、残念至極、ファイッする。

で、最近ついにそのような現状を止めるべく奈良県は公園内の鹿を捕獲するという動きに出た。ここまで来るとそれはもう、せざるを得ないということだろう。とりあえず試験的な120頭を捕獲する計画らしい。それでどうなるかは未知数であるが、年間60億とも言われる農作物への被害減少や自動車などとの接触事故防止に向けた嚆矢となってほしいものだ。

案の定動物愛護団体から捕獲中止の要望が出されているらしいが、正直彼らはこういう文脈を理解した上での行動なのだろうか不安である。県はこれまでもそのジレンマに人知れず悩まされてきた。鹿はその愛くるしい顔で我々に捕獲中止の協力をせよと迫ってくるが、それに応えることが本当にやつらを大切にするということなのか、落ち着いて考えてみたい。「鹿かわいい~」とSNSで拡散するのは県でも愛護団体でもなくて、我々なのだから。

優しい言葉を囁くことだけが、本当の愛情ではないはずだ。冷たく突き放す愛もありである。