隔日おおはしゃぎ (Road of座)

Road of座(ロードオブザ)の代表大橋拓真が、ほぼ隔日でコラムを書くところ

♯20 ランニングノスタルジー【解答付き】

久しぶりに地元でランニングすることにした。コースは駅の反対側の比較的自然の多いところにした。駅の方はどうせこれからもたくさん通る道だと思ったので。

それにしても久しぶりに帰ると地元の街並みがミニチュアのように見えるのは何故だろう。なんてことを考えながら買ったきり数回しか履いていないランニングシューズを誇らしげに駆け出した。

始まってすぐ見えるのは徒歩二分の公園である。小学生の頃自転車で行ける範囲の公園は大体網羅していた(鬼ごっこすればその公園を『知った』ことになるみたいな風潮だった)が、中でもその公園は基準になるような公園で、思い出に事欠くことがない。昔その公園に猫の赤ちゃんが捨てられていて友達三人で雨の中近所の家々に飼ってもらえないかと回ったこともあったし、ピアノを習いに行くのが嫌で家出した結果行き着いたこともある。滑り台で年上に混ざってアリ地獄をして力が強いと褒められたこともあった。 早速頭が過去に引き戻されるが、現在その公園は、木登りが危険だということで僕が十八番にしていた木々は皆切り株になってたり、ボール遊び禁止の看板がやたら張られていたりしていた。ボール遊びしないでこのグラウンドは何に使えば良かったんだろう。あと、公園の前に犬を庭に放し飼いしていた家があったのだが、肝心のレオナルド・ダ・ヴィンチの姿はなかった。皆にレオレオ呼ばれて尻尾振ってたやつはどこに行ったんだ。

やがて通っていた小学校が見える。巨大な池を埋め立てて作ったから名前を大池小学校という。よく間違えて大橋小学校と書いてしまったものだ。大、まで書いて油断するとそうなる。

道中もっともショックだったのが、パン屋「リッチ」の消滅である。「リッチ」は書道、ピアノ、散髪と、あらゆるニーズへの道すがらにあり、母はよく「リッチさん買ってきたよ」と言っては子供の機嫌をとった。おかげで僕は名前自体が「リッチさん」なのだと誤解していた難しい時期を経験することとなった。余談だが、友達界隈ではパン屋では圧倒的に「ガリバー」が人気で、僕は常にマイノリティに回ることとなったが、その気持ち良さに味をしめたのが今日の僕となってしまっている。

やがて、二つ目の公園が見えてくる。そこは最寄りの公園よりも圧倒的に広大なグラウンドを所有しており、それが小学生の僕には圧倒的魅力となった。当時野球にのめり込んでいた僕は仲間と共に野球チーム「桑田ファイターズ」を立ち上げ毎週水曜放課後はそこで野球することにしていた。少年野球に入らないやつらに偉そうにノックをしていたのが僕だ。そいつらが中学で野球部に入ったことを聞いたときは謎の感動がこみ上げた。

久しぶりのランニングはすぐに息があがったのでその日はそこで切り上げることにした。さあ、早く帰ろう。早く。その時ふと目に入ったのが、排水路である。昔、その排水路がどうなっているのか確かめるべく中を探険しまくったことあったっけ。その結果道なりよりも格段に早く目的地に着けることを発見し、うれしかった。帰ってそのことを母に言ったら誰々が中学受験の勉強をもう始めてるのに、とか言われた記憶がある。ともあれ、当然ながら今回は道なりに帰った。

少年時代に冒険だった距離は今やランニング圏内に収まり、この道もあの道も袋小路になるところまで知っている。また、それと同じように神童と呼ばれた彼の最終学歴も、手の付けられないあの腕白野郎の就職先も知ってしまった。僕もまた未知数の将来を確実に現実化しながらランニングしているのだ。仕方ない。かけがえのないこの地元の記憶を、かけがえのない僕だけの一歩にしてどこかへ進んでいくしかない。とりあえず札幌へ。



【解答】
白兎は稲葉ではなく因幡である。よって正解は白兎。