隔日おおはしゃぎ (Road of座)

Road of座(ロードオブザ)の代表大橋拓真が、ほぼ隔日でコラムを書くところ

♯16 納涼怖い話大会

じゃあ次は僕の番ってことでいいかな。うん。ここまでの皆の話と比べるとあんまりいいものは用意できなかったと思うんだけど、でも自信を持って話すよ。なんてったって僕の話は、友達の友達とかでも、親戚の隣人でも、T市某所とかでもなくて、僕自身が実際に体験したものなんだからね。やっぱこれからは、完成度よりも生々しさの方が肝心だと思うんだ。その分センセーショナルなオチが無いのは悪く思わないでくれ。


僕は前にピザの配達のバイトをしてたことがあるんだけど、その時のことだ。配達の人は基本的にはピザを運んでお金をもらってっていう業務しかないんだけど、その日は人員が少なくてさ。ポスティングっていう、ある範囲の家々にパンフレットをひたすら入れていくっていう業務を任されたんだ。お昼だよ。まあそんな嫌いでもなかったから早速大量のパンフレットを持って指定された区画に出掛けた。そこはあまり普段行かないような地区で、全然土地勘もないとこだったんだけど、するべきは目に留まった全ての家にパンフレットを入れることだからあまり関係がない。

そんなわけで意気揚々とポスティングし始めた。やってみたらわかるんだけど、郵便受けって結構入れづらいんだよね。横に細長い穴に、押してあける蓋がついてて、チラシを持った方の手で押して同時に入れるってのがなかなか出来ない。そういうときはチラシを持ってない方の手で蓋を押しておきながらチラシを押し込むってやらなきゃいけない。たまに蓋がやたら重いのもあったりしてそりゃもうイライラの連続さ。

で、あるアパートに差し掛かった。ところどころ外装にヒビがあって、全体の塗装もほぼ剥がれている。そして昼なのに中にはほぼ光が入っていない。階段も狭いし一階に全室まとめた郵便受けもない。すごく廃れていて、本当にここに人住んでるのかなあと思いつつ。チラシを減らさなきゃいけないから一つ一つの部屋のドアの郵便受けに入れていくことにした。
ここの郵便受けも、片手じゃ開けれないやつだった。そんなわけで一つ一つ結構な時間をかけてやる羽目になった。で、何階だったかなあ、もう忘れたんだけど。よし次の階だと思って、階段を上って早速次のチラシを入れようとした。そしたらさ。


開いたんだよ、郵便受けが。勝手に。


うわっ、って言ったかは定かではないけど驚いた。そして瞬時に色んなことが脳裏をよぎってしまった。もうそうなるとダメだ。とりあえず急いでそのポストにチラシを突っ込んで、そのアパートを出ようと思った。そしてまずはその階から降りようとした。したら今度は閉まったんだよね。郵便受けが。もうビビりまくっちゃって、駆け足でそのアパートを飛び出した。まだ残ってたんだけどね、部屋。で、急いで清潔そうで安心できるマンションに向かっていった。


まあ今思い返すと、そんなにビビんなくても良かったと思ってるよ。郵便受けがどうだったかなんてことでね。でも、なんでその住人は郵便受けを開けたんだろう。なんで、僕がピザの配達ではなくポスティングをしてるって分かったんだろう。服は同じだしその階の初めての部屋だったのに。そして、なんで、見てたんだろう。


っていうのが僕の話。派手じゃなかったかな。ごめんごめん。次はもっとパンチのある話を用意しておくよ。じゃあ蝋燭、ひとつ消すね。